『旅するジャケットに込められた、
未来へのエール』

2021年11月9日、隈研吾建築都市設計事務所による「SASHIKO JACKET」の記者発表会が、角川武蔵野ミュージアムで行われた。
当日の内容を踏まえ、今回のチャリティ企画を実現するに至った経緯と、MONTURAと隈研吾氏の両者に共鳴する思いをもう少し紐解いてみたい。

アウトドアウェアの真価に、
新たな視点をのせて

 MONTURAのウェアといえばテクニカルなアルパインスタイルが思い浮かぶが、そのイメージの殻をものともせず飛び越えるような全く新しいジャケットが登場した。建築家の隈研吾氏のデザインによる、ちょっとフォーマルな場所にも着ていけそうな「SASHIKO JACKET」だ。

 このジャケットのユニークなディテールのひとつに、収納式のフードがある。雨を凌げる程度のギミックには、世界中を旅するように仕事をしてきた隈氏のシンプルな思いが込められている。

 「旅先では荷物は少なく居たい。特にヨーロッパなんかは雨もさらっと降る感じなので、このくらいのフードがあれば充分なんです(隈氏)」

森の美術館
「アルテセラ」での出会い

 この斬新さと同時に伝統的な趣も備えたユニークなジャケットが生まれた経緯は、MONTURAがかねてより支援していたアルテセラという北イタリアの屋外美術館の存在がある。ここで隈氏とMONTURAは出会った。

 「モンチュラはアウトドアブランドでありながらアルテセラのような大規模な屋外美術館などにも理解を示し、支援している姿勢に敬意を抱きます。日本でもああいった場があるといいのにと思う(隈氏)」

 アルテセラでは広大な自然の森の中に芸術、音楽、ダンスなどを組み合わせる試みを30年以上に渡り続けており、人間のあらゆる創造性と自然との調和を模索している。その意義に深い理解と支援を続けてきたMONTURAと隈氏が共鳴し、何か一緒にできたら…と生まれたのが、この「SASHIKO JACKET」を通じた未来へのエールとも呼べるプロジェクトだ。

困窮する人々への
サステナブルな支援を目指して

 日本の伝統技術である刺し子を取り入れ、環境にも深く配慮されたこの「芸術作品」は、日本とヨーロッパそれぞれで83着ずつ作られる。日本での収益は南三陸のNPO法人Women’s Eyeへの寄付金となり、欧州での収益はMONTURAが支援してきたモンゴルGER FOR LIFEへ寄付される。

 「SASHIKO JACKET」には、MONTURAの得意とする高次元で斬新な技術のみならず、環境負荷軽減への取り組みが強く盛り込まれる。素材にはオーガニックコットンやシルク、もちろんPFC/PFOAフリーの撥水加工を採用している。中綿も本来廃棄されるはずだったキャメル端材とリサイクルポリエステルを混ぜ合わせたものだ。

刺し子の描く輪が、
どこまでも繋がっていくように

 MONTURAの創始者ロベルト・ジョルダーニはチベット仏教への関心が強く、社名にはチベット語で幸運を表す「TASCI」を冠し、MONTURAブランドのロゴマークにはエンドレスノットを模した造形を採用している。ジャケットの柄には、このモンチュラのロゴマークを刺し子刺繍で連続展開。偶然にも日本の「助け合い」の精神を象徴する七宝文様に似た模様が浮かび上がり、今回のプロジェクトのコンセプトとも見事にリンクした。

 「日本の古い伝統技術である刺し子が、素材を構造で補強するという点で建築と通ずるものがあり、勉強になった(隈氏)」

 東北の農家を中心に受け継がれてきた刺し子の文化は、着物の布に装飾を施す意味合いだけでなく、少しでも暖かく破けにくいようにといった、着る者への愛情と優しさに溢れたものだ。東北の震災以降、南三陸地方への支援を続けてきた隈氏の思い描く「復興以前よりも盛り上がるくらいの」美しい未来へと、皆の気持ちがこの刺し子の刺繍のように幾多にも重なり、繋がっていくことを願う。

写真と文:新井 知哉 (C-over)

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